今回は、アメリカンフットボールリーグ、NFLのスポンサー「Gatorade(ゲータレード)」によるスポンサーシップのアクティベーション事例をご紹介します。ゲータレードはアメリカの飲料メーカー「PepsiCo(ペプシコ)」が製造するスポーツドリンクです。
ゲータレードは、NFL最高峰の舞台、スーパーボウルに際して、SNSを活用した画期的なキャンペーンを行いました。
ゲータレードのスーパーボウルにおける取り組み
ゲータレードはNFLのスポンサーを1983年から務めており、非常に長いスポンサーの歴史があります。
ゲータレード×NFLで特に有名なのが、「ゲータレードシャワー」と呼ばれる、リーグ優勝などの際に、スポーツドリンクのタンクの中身をチームのヘッドコーチの頭上にぶちまけて優勝を祝う行為です。
日本でいうビールかけのような、NFLにおける伝統的パフォーマンスと言えます。この伝統はアメリカンスポーツの風物詩となっています。
これまで築き上げてきたゲータレードシャワーの伝統を活かして、ゲータレードは昨年のスーパーボウルの際に、SNSを活用した新たなキャンペーンを行いました。まずは、下記の動画をご覧ください。
このキャンペーンは「The Super Bowl Dunk」と名づけられました。要約すると、実際にNFLの選手たちが体験している「ゲータレードシャワー」を、SNS上で体験でき友達とシェアできるというものです。
この動画の中に出てくる「Snapchat(スナップチャット)」というSNSは日本ではあまりメジャーではありませんが、海外、特に欧米では若い世代に人気のSNSです。基本的にはコミュニケーションは動画で行い、その送った動画が自然消滅しまうのが特徴です。そのため、開ける時にワクワク感があり、より当事者間のコミュニケーションに特化しています。
このキャンペーンは世界中で、約1.6億回のインプレッション(表示回数)、約800万人がゲータレードシャワーの動画を投稿しており、驚異的な数値を出しました。また世界的な広告業界の祭典である、カンヌ国際広告祭でも多くのカテゴリーで受賞しています。
この「The Super Bowl Dunk」の優れている点は、大きく2つあると考察しました。
1. ゲータレードシャワーの確立
まず、「ゲータレードシャワー」という伝統を確立していることが、優れたアクティベーションと言えます。この伝統的パフォーマンスの中に「ゲータレード」というブランド名が入っていることで、人々はNFLを観戦している時にゲータレードを想起しやすくなります。
世界には多くのスポーツドリンクがあるため、差別化を図るのは困難です。しかし、スーパーボウルの視聴者は1億1,000万人から1億1,500万人と言われており、ゲータレードシャワーを通して、「ゲターレードはNFLにスポンサーをしている」というイメージを多くの人々に植え付けることができます。
2. ゲーターレードシャワーの活用、そして「体験」
そして、このゲータレードシャワーを「体験」できるということが、このアクティベーションの大きな肝となっています。
動画の中で、「ゲータレードシャワーを、空想ではなく、実際に体験させたい。だから、スナップチャットの固有の機能と顔認証機能を活用して、よりリアリティのある体験を創り出した。(筆者翻訳)」と述べられています。
つまり、これまではゲータレードシャワーを「見る」ことしかできなかったのが、消費者がスナップチャットを通して「体験」することを可能にしました。
また、このリアリティある体験は、人々、特に若い世代に「シェアしたい!」という感情を沸かせます。スナップチャットを通して仲のいい友人などに動画を送り合うことで、キャンペーンを拡散させることに成功しています。
このような体験をする仕組みを構築することで、消費者とゲータレードのエンゲージメント(ブランドとの結びつき)が高まります。結果としてブランドイメージが向上し、最終的に消費者の購買に繋がります。
この「The Super Bowl Dunk」を以下のようなカスタマージャーニーにまとめてみました。
ゲータレードシャワーという伝統だけに依存せず、消費者やファンとの「繋がり=エンゲージメント」を高めるために、若者に人気のSNSであるスナップチャットを活用している点が非常に巧みです。
一方的なメッセージではなくエンゲージメントを高める、最新の流行しているSNSを活用する。全てが先天的であり、非常に優れたスポンサーシップのアクティベーションと言えるでしょう。
最先端をいくアメリカのスポーツビジネス
アメリカでは日本よりもスポーツビジネスが浸透しており、新しい取り組みが次々に生まれると共に、高額なお金が動きます。
NFLはアメリカで大人気のスポーツコンテンツであり、試合の合間に流されるCM枠の料金は高額です。今年のスーパーボウルのCM料金は、30秒で500万ドル(約5.8億円)とも言われています。
しかし、今回ご紹介したゲータレードの事例のように、CMではなく別の方法で視聴者にアプローチを図ることもできます。特にSNSは、リアルタイム性があるためスポーツとの親和性は高く、今後もこういった施策が増えていくでしょう。
ゲータレードとスナップチャットの試みはスポーツビジネスの最先端をいくアメリカでこそ生まれた事例と言えるのではないでしょうか。エンターテイメント性に溢れるアメリカでのスポンサーシップのアクティベーション事例に今後も注目です。