イタリア・セリエAに所属するウディネーゼのスポンサー「ダチア(DACIA)」によるスポンサーシップのアクティベーション事例をご紹介します。
ダチアは世界最大の自動車グループであるルノーを筆頭株主に持つルーマニアの自動車メーカーです。ウディネーゼのユニフォーム胸スポンサーであり、ホームスタジアム「DACIA ARENA」のネーミングライツ(命名権)も保有しています。
そんなダチアは、来場客数が年々減少しているセリエAの現状を省みて、ウディネーゼのファンに向けたあるプロジェクトを行いました。
未来のファンにシーズンチケットをプレゼント
ダチアは、未来のウディネーゼファンとなる「赤ちゃん」にシーズンチケットが当たるプロジェクトを行いました。
暴動が多発し、狂信的サポーターであるウルトラスがスタジアムへの入場を禁止されたことで、セリエAでは多くの空席が目立つようになっていました。ダチアはそんなセリエAのスタジアムに足を運ぶ新しいファンを獲得するためにターゲットを絞りました。それが「これから生まれてくる赤ちゃん」です。
まず、これから子供が生まれる家族がプロジェクトに応募します。当選すると、生まれてくる赤ちゃんにシーズンチケットが与えられるとともに、応募から6ヶ月後(2017年4月3日)のウディネーゼVSナポリに招待されます。さらに、当選した中から20人の妊婦がキックオフ前に選手たちとともに入場し、ファンとして貴重な体験をしました。
一連のプロジェクトをまとめた動画があるのでぜひご覧ください。(英語)
妊娠検査薬もプロジェクトに合わせたデザインで配られており、素敵な取り組みなだけでなく、プロジェクトの宣伝としても成り立っています。プロジェクト応募から6ヶ月後に開催と、妊活期間も十分に設けられており計画的に実施されていることがわかります。
![特別デザインのDACIA妊娠検査薬](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=454x10000:format=jpg/path/s11d2993c53e3ab8a/image/icdc9f50ef68484bc/version/1509413099/%E7%89%B9%E5%88%A5%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%81%AEdacia%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E8%96%AC.jpg)
こちらのプロジェクトは、95%のイタリアのテレビ局とメディアに取り上げられ、8000万メディアインプレッションを生み、大きな話題となりました。ツイッターのトレンドでも#DACIAFAMILYPROJECTが一位を獲得しています。
セリエAの抱える問題から生まれたアイディアで、多くの拡散を生んだダチアによるプロジェクト。その優れたポイントを考察しました。
キックオフ前の時間の活用
このプロジェクトでは、最も盛り上がるピークを多くの人の注目が集まる「キックオフ前の時間」に持ってきています。
キックオフ前の時間、特に選手入場の時間は観客のボルテージも最高潮に達しており、ピッチ上に注目が集まっています。つまり、プロモーションなどを行うには最高のシチュエーションです。
エスコートキッズと一緒に入場といった取り組みは頻繁にされていますが、このコンテストでは妊婦が選手と一緒に入場しており、普段のサッカーシーンではあまり見られない光景です。こうしたキャッチーな取り組みは、サッカーへの関心が非常に高いイタリアのメディアは積極的に取り上げます。結果として、ダチアの行った一連の取り組みを多くの人々に拡散させることができます。
キックオフ前に行うイベントはチームやリーグ側と綿密に計画を立てて行わなければならず、他のスポンサーとの兼ね合いなどもあるため実施するのは簡単ではありません。しかし、だからこそ成功させることで得られる価値も非常に大きいです。多くのスポンサー企業の中から一歩抜き出るための有効な手段であると言えます。
![入場後のシーン](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=484x10000:format=jpg/path/s11d2993c53e3ab8a/image/ifda653120934b77f/version/1509413038/%E5%85%A5%E5%A0%B4%E5%BE%8C%E3%81%AE%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%B3.jpg)
プロモーションターゲットは「赤ちゃんの親」
赤ちゃんを未来のファンにするという素敵なプロジェクトを行ったダチアですが、その真の狙いは自社製品のターゲット層へのプロモーションとブランディングであると考察します。
ダチアの売上台数は2014年からヨーロッパ、そしてイタリアで増加し続けています。また、ダチアのメイン車種は「サンデロ」と「ダスラー」などで低価格を売りにしています。経済状況が芳しくないイタリアにおいては、ダチアのような自動車は消費者にとって魅力的であることが要因であると考えられます。
![イタリアにおけるダチア(DACIA)のセールス(2011-2016)](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=546x10000:format=jpg/path/s11d2993c53e3ab8a/image/idcf9fa91ee0b9e4c/version/1509413312/%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%80%E3%83%81%E3%82%A2-dacia-%E3%81%AE%E3%82%BB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%B9-2011-2016.jpg)
赤ちゃんを出産するタイミングで自動車の購入を検討する家族も多くいるかと思います。出産で出費が重なる家族にとっては、低価格のダチアは最適な選択肢の1つです。
そうした意味で、ダチアが行ったプロジェクトは、「これから子どもが生まれるから、できるだけ安くいい車を買いたい」と考えてる家族に興味関心を抱かせる最適なプロジェクトです。すでにダチアを認知している家族にとっても素敵なプロジェクトであるためイメージアップにもつながりブランディング効果も大いに期待できます。
このように、「赤ちゃんが生まれる家族」という明確なターゲットに向けての緻密な戦略の練られたプロジェクトであると言えます。
リーグやチームが抱える問題がチャンスに
このプロジェクトはセリエAの抱える来場者の減少という問題から生まれています。一見ネガティブに見えることでも、発想を変えればアイディアを生み出せるかもしれませんし、スポンサー企業にとってはチャンスになりえます。
日本のスポーツ界にも解決できていない様々な課題があります。そういった課題に対してスポンサー企業側から問題提起が生まれ、解決へのムーブメントが増加していくことを期待したいと思います。