カーフリーデーの日にアクティベーション
スポンサーシップの花形とも言える「胸スポンサー」。その注目度の高さから、企業認知や社会的なプレゼンス向上、ブランドイメージUPなど、多くのメリットがある。しかし、活用方法次第では、企業そのものではなく、自社が届けたいメッセージを発信することも可能となる。
その一つの代表事例が、2018年に米国大手自動車メーカーの『シボレー』が実施したアクティベーションだ。同社はイングランド・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドの胸スポンサーが有名であるが、チリの『CFウニベルシダ・デ・チレ』とエクアドルの『LDUキト』の胸スポンサーも務めている。
この二つの南米クラブと共に取り組んだのは、9月22日の『カーフリーデー(都市部で自動車に乗るのを控え、交通や環境、車の使い方に関する社会問題について考える日)』に開催された両クラブの試合に際して、ユニフォームに掲載されている自社ロゴを、『自転車』に変更するというもの。
試合前には、このユニフォームのお披露目イベントが開催され、選手たちは実際にこのユニフォームを着用してプレー。加えて、同社の公式SNSで両クラブの主力選手がPRに参加し、試合会場に自転車で来るように声がけた。加えて、チリ政府に関しては、このユニフォームをカーフリーデーの啓蒙PRに活用されるまでに至った。
また、このユニフォームの抽選キャンペーンもFacebookで行われた。参加条件は、Facebookの投稿に、#DaleCanchaALasBicis のハッシュタグを付けてコメントすることで、抽選で6名に自転車ロゴ入りのLDUキトのユニフォームがプレゼントされた。
結果として、このユニークな取り組みは、様々なメディアに取り上げられ2500万インプレッション、広告換算価値100万ドルの価値を獲得した。さらには、カンヌライオンズと並ぶ世界的な広告賞『CLIO』のスポーツ部門でブロンズ賞に選出され、高い評価を得た。
ロゴ変更で伝えたいメッセージを訴求
シボレーによるこのアクティベーションの目的は、CSR的な啓蒙活動を通して、ブランドイメージを高めることだろう。カーフリーデーについて注目を集めることで、自動車に携わる企業として社会的責任を果たす姿勢をアピールすることができる。
特筆すべきは、元々ユニフォームの胸の位置に掲載していた自社ロゴを変更したことだ。胸スポンサーロゴは露出が多い分、変更すれば多くの人々の注目を集めることができる。それを同じ日に複数のクラブで行いさらに大きな話題を生めることは、多くのメディアや政府にまで取り上げられたこの事例が示している。
また、プレゼント企画を同時に開催したことも効果的だ。胸ロゴを変えたユニフォームは、ファンにとっても貴重なアイテムであり、欲しいと考えるファンも多いだろう。そのため、SNS上で抽選キャンペーンを併用することで、自社の取り組みの認知を高めることができる。
こうした企画を実施する上で、「どんなメッセージを伝えたいか」を明確にすることが重要だろう。同社の事例では、カーフリーデーの啓蒙という明確な目的があったことから、自転車に変更し「この日は自動車に乗らないで欲しい」というメッセージを伝えている。それも自動車メーカーとして、カーフリーデーとの親和性の高さが前提にあった。このように自社のビジネスや、取り組んでいるCSR活動と紐付けるのが効果的だろう。
Junto a @chevroletcl nos unimos en esta linda iniciativa y hoy salimos a la cancha conmemorando el #DíaMundialSinAuto con una camiseta especial, buscando crear conciencia sobre la contaminación, eficiencia energética y el desarrollo urbano sustentable.#VamosLaU 🤘 pic.twitter.com/oZjYT7xgew
— Universidad de Chile (@udechile) September 23, 2018
実施には綿密な準備を
注目を集める上で有効なアクティベーションであるが、数多くの調整が必要となる。ユニフォームの胸ロゴはすぐに変更できるものではない上に、ユニフォームを製造するメーカーとの調整や、リーグのレギュレーションに即しているかの確認業務が発生する。そのため、実施を企画している場合は、クラブのスポンサー営業担当とシーズン開始前から綿密に話し合い、準備を進めていくことが重要だ。
長年胸スポンサーを務めていて、スポンサーとしてファンから十分認知されている企業であれば、このような企画は「新しい風」を吹かす意味でも効果的ではないだろうか。決して少額ではない権利を、ユニークな形でアクティベーションしていくことで、胸スポンサーとしての存在感をアピールし続けることが出来る。場合によっては、胸スポンサー以外の企業であっても、自社が保有している広告枠で応用できるかもしれない。
決して簡単な企画ではないが、コロナ禍による単なる広告宣伝媒体としての活用が難しくなっているこの状況だからこそ、攻めの姿勢を持ってユニークなアクティベーションを仕掛ける重要性は高まっている。