ドイツ・ブンデスリーガで、AR(拡張現実)を活用して、試合映像を配信する国別にスポンサーボードに映し出す広告を出し分けるテクノロジーをテスト導入したことが発表されている。将来的にはブンデスリーガの1部と2部で導入を見込んでいるという。
ARを活用しているため、スタジアムに訪れるファンやドイツ国内の視聴者には、スポンサーボードを変えていることを気付かせずに切り替えることが可能だという。今シーズンのドイツ・スーパーカップ(リーグ杯)でも、北アジア、南アジア、アメリカ、ヨーロッパ、中東、北アフリカの地域に向けて、このARテクノロジーが使用されている。
またドルトムントは、2018/2019シーズンの全てのホームゲームでこのARテクノロジーを導入することが決定している。ドルトムントが昨シーズンのアウグスブルク戦で試験的に導入した模様がまとめられた動画がこちらだ。同じプレーシーンであるにも関わらず、異なる広告が掲載されている。
このARテクノロジーには、スポーツシーンでの活用を目的としたARを開発するSupponor社と、スタジアムに導入されるLEDボードを開発するAID社が技術提供を行っている。また、スポーツを含むエンターテイメントを取り扱う広告代理店であるLagardère Sports社が、広告販売などのマネタイズに向けたプラットフォームの構築に努めていく。
正式に導入が決定した場合、ブンデスリーガの1部と2部の全36クラブ向けにワークショップを開き、各クラブが効果的に活用できるようにリーグ側から積極的にサポートをしていく。
ブンデスリーガだけでなく、FA(イングランドサッカー協会)はロシアW杯開催前のテストマッチであるイングランド対コスタリカの試合でもこのARテクノロジーの導入をテストしている。
また、サッカーだけでなくNFL、NBAといったサッカー以外のスポーツでも導入への動きが進んでいくとされている。
スポンサー企業への新たな価値提供=クラブ収入UP
このARテクノロジーは、スポンサー企業への新たな価値を提供し、クラブの収益を向上させる大きな可能性を秘めたテクノロジーだ。
ニールセンスポーツの調査によると、ブンデスリーガの1部に所属する18クラブは、このARテクノロジーを活用した地域ターゲティングの広告枠を販売することで、広告収入を7%、または6000万ユーロ(日本円で約7,700万円)ほど増加できる可能性があるという。
スポンサー企業がスポーツへの投資を行う1つの目的は、そのスポーツの世界中のファンにアプローチし企業認知を高めることだ。この目的を果たすために、スタジアム内にあるスポンサーボードに自社のロゴやメッセージを掲載する。
このARテクノロジーが導入されることで、スポンサー企業はスポーツを活用して自社が特に注力したい地域やマーケットに向けてスポンサーボードに広告を掲出できる。そのため、スポンサー企業からすると無駄な広告掲出が減るため、投資回収率をあげることができる。
結果として、スポンサー企業に新たな価値を生み出すことができ、リーグやクラブとしても継続的なスポンサー収入の獲得や新しいスポンサーの獲得に繋げることができる。またARによってスポンサーボードの表示内容を替えることができれば、新しいスタイルのアクティベーションのプランニングも可能になり、クリエイティブな事例が生まれていく可能性もあるため、今後が非常に楽しみなテクノロジーだ。
テクノロジーの活用はスポーツの発展には必要不可欠
日本でもスマートスタジアムという言葉を頻繁に聞くようになってきたが、WiFiの整備などスタジアム設備に関するものがまだまだ多い。もちろんそういった改革もスタジアムに訪れるファンの観戦体験を高める上で非常に重要であるが、スポンサーへの価値を高めるためのテクノロジーの導入も今後はより重要となってくるだろう。
特に今回のARテクノロジーはサッカーだけでなく、ほとんどのスポーツで活用できるものだ。スタンダードなものになればスポーツ全体の価値が高まるため、今後の発展に繋がっていく。そうした意味でも、ブンデスリーガのような世界中からの関心が高いサッカーリーグが導入を公表して情報を発信することは非常に意義のあることだ。
日本にも多くの優れたテクノロジーを持つ企業が多くある。自社のテクノロジーの力を世の中にアピールする上でスポーツは大いに活用できる。今回のARテクノロジーのように、スポーツの真の発展に繋がるテクノロジーを導入する企業が今後も増えていくことを期待したい。