全世界から注目を集めるFIFAワールドカップ。2018年のW杯の開催国はロシアでは、今も激闘が行われている。そんな4年に1度のサッカーの祭典に際して、ドイツの自動車メーカー「フォルクスワーゲン」は、オフィシャル・スポンサーではないにも関わらず、巧みな手法で自社のプロモーションを行うことに成功した。
WORLD CUP DRAW HIJACK
W杯では開催一ヶ月前に出場カ国32チームをグループに振り分ける組み合わせ抽選会が行われる。この組み合わせ抽選会は、自分の国がどこの国と対戦するかを決める、各国のファンにとっては非常に重要なイベントだ。フォルクスワーゲンはこの組み合わせ抽選会に際して、ロシアのファンの関心を集めるユニークなバナー広告を出稿した。
VW DrawHijack from Artiom Gelvez Kostenko on Vimeo.
そのバナー広告とは、リアルタイムでロシアの対戦国が発表されるたびに、バナーのデザインが変わるというものだ。このバナーは「sports.ru」などのロシアの大手スポーツメディアサイトに掲載された。
事前にどの国と対戦するかは分からないため、ロシアが対戦する可能性がある国の全てのパターン、589通りを用意しており、綿密な準備が行われていたことが分かる。また、リアルタイムにバナー広告のデザインを更新するために、特別なソフトウェアも導入されている。
最終的にこのバナー広告は、2日間で約550万インプレッション、約4万のバナークリック、フォルクスワーゲンのソーシャルメディアアカウントに1,000以上のポジティブなコメントが投稿されるなど大きく拡散し、ロシアの人々にプロモーションすることに成功した。
アンブッシュマーケティングの好事例
注目すべきポイントは、フォルクスワーゲンがW杯のスポンサーではないにも関わらず、W杯を活用して自社のプロモーションに成功していることだ。フォルクスワーゲンの例のように、大きなイベントに便乗して公式スポンサーではない企業が自社の宣伝や商品の販売を行うことを「アンブッシュマーケティング」と言い、便乗商法とも呼ばれている。
W杯は全世界の人々の注目を集める巨大なスポーツイベントだ。そのため、大勢の人々の関心が集まるW杯には大きなビジネスチャンスが広がっている。そのため、高額のスポンサー費を払うことができる世界的な大手企業は、そのチャンスを活かそうとロゴ掲出などのマーケティング活動を行う。
下図:全世界のGoogleで「World Cup」というキーワードで検索された数の推移
公式スポンサーとなった企業は、W杯のロゴの使用や、オフィシャルスポンサーであることを名乗ったマーケティングを行うことができる権利が与えられる。しかし、それ以外の企業はW杯を全面に押し出したマーケティングは禁止されている。
フォルクスワーゲンが仕掛けたバナー広告は、「World Cup」という言葉や公式のロゴを使用せず、各国代表のサポーターを掲載するという形でW杯を想起させており、権利の問題をうまく掻い潜っている。
そして大会同様に人々の注目を浴びる組み合わせ抽選会というイベントに合わせた上に、ロシアで最も大きなスポーツメディアにバナー広告を掲載するなど、人々の関心を集めるための工夫がされている。
そうした点から、公式スポンサーでなくてもそのチャンスを巧みに活用しており、非常に優れたアンブッシュマーケティングの事例であると言える。
アンブッシュの肝は「事前準備」と「攻めの姿勢」
アンブッシュマーケティングは、普通にスポンサーとなりアクティベーションを行うよりも綿密な準備と戦略的なアイディアが求められる。なぜなら、権利に反したマーケティングをしてしまうと訴訟や炎上に繋がる可能性がありリスクも高いからだ。そうならないためにも、権利の内容を深く理解し、ターゲットの属性やそのスポーツイベントの特性を活かしたプランニングが必要だ。
全世界の人々が集まる、W杯やオリンピックの舞台を活用しない手は無い。公式のスポンサーであっても効果的なアクティベーションを行える企業は多くないため、大きなチャンスが転がっている。アンブッシュのような便乗商法は正々堂々としていないという意見もあるが、だからこそ他の企業と差別化を図る上で重要なマーケティング手法なのではないだろうか。
スポンサーになれる資金がない、選手のスポンサーだが大会のスポンサーではないため活発に動けない、そうした状況の企業こそ、アンブッシュマーケティングを活用していくべきだろう。日系企業からも、フォルクスワーゲンのように攻めの姿勢を貫く企業が現れることを楽しみにしたい。