今回は、アメリカの半導体メーカー「Intel(インテル)」によるスポーツビジネス事例をご紹介します。
アメリカの半導体メーカー「Intel(インテル)」がスポーツビジネスへの投資を進めている。昨年の6月には、国際オリンピック委員会(IOC)と最高ランクの「ワールドワイドオリンピックパートナー」という形で、2024年までのスポンサーシップ契約を結んでいる。
さらには、2018年2月に開催される平昌冬季オリンピックの試合中継が、Intelの没入型VRヘッドセットでの視聴が可能になることを昨年10月に発表。そのVR観戦を可能にするのが立体映像ライブ配信技術「True VR」で、会場の至る所に設置される予定だ。VRだけでなく、次世代通信規格5Gやドローンを導入し、Intelのテクノロジーがオリンピックの支援を行なっていく。
Intelがスポーツへの投資を行うのはオリンピックだけではない。すでに米バスケットボールリーグ「NBA」ともスポンサーシップ契約を結んでおり、視聴者はVRを通してその場にいるかのような体験をすることができる。また、「インテル freeD™ テクノロジー」という、360度リプレイを可能にする技術をNBAやMLB、NFL、スペイン・リーガ・エスパニョーラにも導入しており、普通にテレビで見ている視聴者も、重要なプレーの様子を瞬時に360度リプレイで楽しむことができる。
スポーツビジネスに投資する理由
オリンピックやNBAなどの競技スポーツ、ゲームで競うeスポーツの支援を急速に推し進めているIntelだが、その狙いは全世界に向けた自社のVRやドローン、5Gといった最新テクノロジーのアピールだと考察する。
Intelは2017年年間半導体売り上げランキングで、4半世紀ぶりに首位の座をSamsungに奪われている。全体的な業績でいうと6%増加しているが、もともとIntelの売上の大きなシェアを占めるパソコンの中央演算処理装置の市場は成熟してきており、既存のビジネスモデルのままでは発展していくことは難しいという見方が強い。
そうした背景があるからこそ、VRやドローン、5Gといった新たな収益を生むビジネスモデルの構築にIntelは取り組んでいる。これらの技術はあらゆるビジネスにも対応できる上、今後需要が高まっていくと考えられるテクノロジーだ。VRに関して言えば、すでにIntelはDELLやHPといったメーカーとともにVRのヘッドセットを開発し売り出している。
そうした自社の取り組みや優れた技術を全世界にアピールするための媒体としてスポーツは大いに活用できる。特にオリンピック、NBAなどのアメリカンスポーツは全世界に多くのファンがいるためその宣伝効果も非常に高い。加えて、Intelが導入するテクノロジーはどれも視聴者の観戦体験を向上させるファンにとって有益なものだ。Intelのテクノロジーが導入された新たなスポーツ観戦の形を体験したファンや視聴者は、Intelの技術の高さを認知するとともに、自分の好きなスポーツを支援するIntelに対してポジティブなブランドイメージを持つだろう。
また、ビジネスの商談の場においても導入事例として紹介でき、スポーツが絡んでいるため非常にキャッチーでイメージが湧きやすく経営層に興味を持ってもらいやすい。特にVRは、スポーツ観戦の在り方を変えるポテンシャルがあり大きなビジネスチャンスを秘めている。一緒にVRを製造していくメーカーとの関係性もこれまで以上に深めていくことができるだろう。
このようにIntelはスポーツの発展に寄与しつつ、自社の最新テクノロジーを全世界に発信し、新たなビジネスチャンスと掴む場としてスポーツを活用している。自社の経営状況や注力していく商材、スポーツビジネスのメリット、全てが戦略的に考えられた上でのスポンサーシップのアクティベーションだと言える。
テック企業のスポーツビジネス参戦は増えている
Intelだけでなく、SamsungやIBMなどといったテック企業が自社のテクノロジーをスポンサーという形でスポーツに導入する事例は増え続けており、近年のスポーツビジネスのトレンドとも言える。それもスポーツが多くの人々の関心を集める場として非常に効果的であるからだ。
しかし、そうった企業が増え続けていくと一歩抜き出ることが難しくなっていく。そこで頭一つ抜き出るためには、そのスポーツやファンがどういったことを求めていて、そのニーズにどこまで寄り添ったソリューションを提供できるかにかかっているだろう。そのスポーツの真の発展に繋がるサポートに従事する企業が、投資した分だけのリターンを得ることができるはずだ。
そうした意味で、Intelの取り組みはそのスポーツの発展に大いに貢献するとともに、自社のビジネスチャンスを拡大させている理想的な形だ。Intelのように戦略的にスポーツビジネスに投資し、スポンサーシップを効果的に活用できる企業が増え続けていくことを期待したい。