ユニフォームの袖ロゴに決済チップを搭載
AllyouneedFreshは、ドイツのオンラインスーパーマーケットです。オンラインの特性を活かした膨大な商品を取り扱い、環境にも配慮された配送システムなどを採用しているのが特徴的な企業です。
2017年5月17日、AllyouneedFresh が、2017/2018シーズンからシャルケのユニフォーム袖スポンサーとなることが発表されました。契約は4年間です。
Zusammenarbeit mit einzigartigem Innovationscharakter: @AllyouneedFresh wird Ärmelsponsor des #S04. https://t.co/rtFVTaIdKE pic.twitter.com/6jhBm2ZYue
— FC Schalke 04 (@s04) 2017年5月17日
ブンデスリーガのクラブが、ユニフォームの袖に独自のスポンサーを入れることが2017/2018シーズンから可能になります。
この袖ロゴは単なるロゴではありません。一番の特徴が、「決済機能の付いたチップが搭載され、フェルティンス・アレーナ(シャルケのホームスタジアム)に訪れるファンが自身のユニフォームで支払いができる」ことです。(現在開発中で、来シーズンから導入予定です。)
シャルケのマーケティング部長アレクサンダー・ヨブスト氏はこう述べています。
「AllyouneedFreshという最高の評判を持つ長期のパートナーを獲得でき、とても嬉しい。そして決済機能の付いたチップを組み込んだユニフォームという世界初の試みを発表できたことに誇りを持っている。このことは、我々がブンデスリーガで最も革新的なポジションにあることを改めて強調する。」
引用:シャルケ公式サイト
アレクサンダー・ヨブスト氏が述べるように、前例のない革新的な取り組みと言えます。今回は、この決済チップがどのような影響をもたらすか考察しました。
・待ち時間の緩和
この決済チップがユニフォームの袖ロゴに組み込まれることで、サポーターが買い物する際の「待ち時間の緩和」に繋がると推察します。
試合当日のサッカースタジアムは大勢の人々で賑わい、試合観戦だけでなくお土産を買う人や、小腹を満たすために食べ物を買う人が多くいます。特にドイツはビール大国であり、ブンデスリーガのどの試合でも、ビールを買うために人々が行列を作っています。
シャルケでは、一旦チケットをもぎって、スタジアム内に入ると、全ての飲食物はこのようなカードで支払いをします。
これも、現金決済でかかる時間を短縮するのが目的です。このカードはチャージ式で、事前にチャージして買い物をするシステムです。
チャージ式カードでも、時間短縮に繋がっていますが、新たな袖ロゴの決済チップが導入されることで、「カードを手に入れる」、「カードにチャージする」というステップが省かれるため、さらなる時間短縮に繋がると推察します。
・待ち時間の短縮→購買客増加への期待
また、「並ぶと時間がかかるから、面倒臭い」と思わせない仕組みを構築することで、スタジアム内で買い物をする人の増加が期待できます。
実際、何か飲食物をハーフタイムなどに買いたくても、行列ができていて諦めた経験がある方も多いと思います。
日本代表の試合では、飲食エリアの周りで人が溢れかえっているのに加えて、現金決済がまだまだ主流なので人の回転が悪いことが多いです。そうしたイライラから、スタジアムを訪れる人々の購買意欲を削いでしまうと、収益を最大化することは難しいでしょう。
近年、スポーツ観戦において、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を重視する取り組みが増えています。スタジアムに訪れる人々の飲食物を購入する時間を短縮できれば、よりストレスが減り、顧客満足度は高まります。
その結果として、スタジアム内で買い物をしてくれる人が増え、クラブの収益増加に繋がると推察します。
・ 会員データとの紐付けが可能に?
このロゴチップには、チップから情報を読み取ることも記載する機能も開発される予定です。これにより、筆者の予想ではありますが、下記の手順でクラブ会員データとの紐付けが可能になるのではいかと予想しています。
1. チケットやグッズを買う際に会員登録をしてもらう
2. 個々のサポーターの会員情報をクラブのデータベースに蓄積する
(既存会員や、シーズンチケットホルダーも含む)
3. ロゴチップ決済のための事前の情報登録で、クラブ会員番号などを記載する欄を設け、その内容とクラブのデータベースの顧客情報をIDなどで紐付ける
このような仕組みを構築することで、スタジアムに訪れた一人ひとりが何を買ったかを可視化できます。また、クラブの抱える顧客データと紐づけることで更なる深い分析が可能になります。
例えば、「シーズンチケットホルダーの30代男性がスタジアムで一番買っているものは何か?」といった、これまで可視化できなかったことが分析できるようになります。CRMなどの顧客管理システムを導入していれば、非現実的な話ではないと思います。
こういった分析ができると、新商品の開発などに活かすことができ、本当にサポーターの求めているものを提供できるようになります。オンラインスーパーマーケットでの購買履歴と紐づける可能性もあります。
これら一連のデータの紐付けは筆者の予想ではありますが、決済チップの導入を通して、様々な施策を打っていくことを期待したいと。
Win-Winな関係
シャルケとAllyouneedFreshの事例は、Win-Winな関係を構築できている点でも優れています。
シャルケとしては、上記で述べた決済機能つきロゴチップにより、混雑緩和、顧客満足度の向上、収益増加への期待、顧客データとの紐付けによる深い分析など、多くのメリットがもたらされます。
AllyouneedFreshとしても、この革新的なパートナーシップを他のクラブよりも率先して行うことで、企業の認知、ブランドイメージの向上に繋げることができます。
AllyouneedFreshの創設者であり経営者のイェンス・ドゥルベルはこう述べています。
「シャルケ04は我々にとって最適なパートナーだ。シャルケは家族のようなクラブであり、素晴らしいファンと大きな共感を集める世界的なクラブだ。シャルケの革新的なキャラクターは、食料品のオンライン販売市場を新しく定義付けるという我々の要求に合っている。」
引用:シャルケ公式サイト
AllyouneedFreshは、前例のない決済機能付きロゴチップという形でシャルケとパートナーを組むことで、革新的なオンラインスーパーマーケットというイメージを消費者に訴求することができます。イェンス・ドゥルベル氏が述べている内容からも、そういった意図があるパートナーシップであることが分かります。
革新的なだけでなく、互いにWi-Winな関係を構築している点で、理想的なパートナーシップであり、優れたスポンサーシップのアクティベーションと言えるでしょう。
日本のスポーツチームでもテクノロジーの活用を
日本のスポーツビジネスにおいてもテクノロジーの活用は取り上げられていますが、海外に比べるとまだまだ多くの事例は生まれていません。
日本は世界的に見ても技術力のある企業を多く抱える国ですし、そういった企業がスポーツに多くスポンサーをしています。ぜひともスポンサーシップを有効に活用して、日本のスポーツが発展する事例を生み出していってほしいと思います。
シャルケとAllyouneedFreshの取り組みには、今後も注目していくとともに、日本のスポーツビジネスに活かせる点を模索していきたいと思います。